仕事の忙しさにかまけて気が付かないことが!
「仕事の忙しさにかまけて、世の中で何が起きているか目に入っていなかった!」
と後悔することがある。
その一つが”ミラーニューロン”だ。
ミラーニューロンはイタリアはパルマ大学のジャコモ・リッツォラッティ氏らによって、1996年に発見されたという。
ところが私が気が付いたのは、『ミラーニューロンの発見―「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学』 (マルコ イアコボーニ著, 塩原通緒翻訳、ハヤカワ・ノンフィクション文庫)という本を読んだ2010年末のことである(脚注)。
15年も遅れて気が付いたことになる。学会に登場したばかりの1996年に気付くことは難しかったのかもしれないが、この1996年に私は40歳代になったばかり、
最も忙しく働いていた時期であることは間違いない。通勤電車の中でも仕事をしていた・・・。仕事に関係すること以外の出来事に関して、アンテナを張っていなかった。
一方、この本を読んだ時期の私はいわゆる定年間近・確かに時間的に余裕があった。リタイア後は、こうした「見逃していたもの」を発見するのも大きな楽しみになる。
他者の意図を感知するメカニズム
ミラーニューロンは様々な働きをするようだが、私にとって最も興味深いのは、
我々が他者の意図をどのように察知するか、そのメカニズムを説明してくれたことである。
ミラーニューロンは物まね細胞とも呼ばれるが、ミラーニューロンのおかげで人は他者の動きを我が身の動きとして”脳内で模倣”し、その我が身の動きの感覚を通して相手の意図を理解するのだという。
右手を上げるという動きをロボットが行ってもその意図を察することはできない。
しかし目前に立つ人が右手を上げようとするその瞬間に、殴りかかろうとしているのか、握手しようとしているのか、賛成の挙手をしようとしているのか、網棚の荷物をとりにいくのか、といった動きの意図を理解する。
確かに、ヒトの動きを注視しているとき、我が身中の筋肉の反応を脳内で模倣しているのを感じることができる。
対戦型スポーツの楽しさ=相手の意図を察知して動く
私は幼い頃からスポーツが大好きだった。しかし勝つことは下手だった。
世の中ではスポーツをすることイコール強くなることを求められる。昨今の運動部などでは厳しい指導の行き過ぎは抑えられるようになったが、褒めて伸ばすという手法も試合で勝つため、強くなるための指導である。勝って嬉し涙を流す選手をほめたたえる。
団体スポーツでは「国を背負って戦う」ような姿勢が称えられる。でも、スポーツ、ゲーム、プレイ・・・”遊び”に通じるはずだ。
では遊びやスポーツはなぜ楽しいのか。勝つことが苦手だからこんなことを考えるのかもしれないが、ずっと気になっていた。この疑問に、ミラーニューロンの説明が応えてくれた。
詳しくは稿を改めるが、結論だけを書くと、対戦型スポーツは相互に相手の意図を察知しながら反応するのが楽しいに違いない。楽しい会話と同じ構造。
複雑なフェイントの掛け合いは相互のコミュニケーションを生み、それが楽しいに違いない。これをテニスで試した(詳しくは別稿で)。
ノーベル賞をとらないかなぁ
ただしこのミラーニューロン、世紀の発見と称賛されたようだが、残念ながらその後の研究の動きが聞こえてこない。懐疑的な見解もあるようだ。
私的にはノーベル賞を受賞してくれないかなぁと思う。上記のようなスポーツの楽しさを共有するには、くどくど説明しても足りないことが多い。ミラーニューロンのメカニズムが一般的な知識として広がれば、「ニッポン、ニッポン!」と連呼してばかりのオリンピックの中継放送も大きく変わるに違いないのだが。
(初稿は2023年6月18日)
注)発見者ご本人の書作は『ミラーニューロン』(ジャコモ ・リゾラッティ (著), コラド・シニガリア (著), 茂木健一郎 (監修, 読み手), 柴田裕之 (翻訳)、 紀伊國屋書店発行)である。ただこの本は、ちょっと読みにくかった。翻訳と監修が粗い・・・。編集者のせいかな・・・
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